
不動産相続の全体像
不動産の相続は「相続開始(被相続人の死亡)→遺言・相続人・財産の確認→遺産分割→名義変更(相続登記)→活用・売却」という順で進みます。期日と書類が多いので、順番を決めて落ち着いて進めるのが成功のコツです。
相続開始直後の初期対応
・葬儀・保険・公共料金の名義や支払い手当て
・預貯金の引き出し制限に注意(原則は凍結。必要費用は制度で一部払い戻し可)
・重要書類の保全(権利証、登記識別情報、固定資産税通知、通帳、保険証券など)
遺言書の確認と保全
・公正証書遺言があれば原本・正本を確認
・自筆遺言が見つかったら勝手に開封せず家庭裁判所の検認へ
・遺留分や記載不備の有無を専門家に確認
相続人・相続財産を確定する
ここからは、誰が相続人か、相続対象の不動産が何かを事実で固めます。戸籍や登記事項証明書で「推測」を排し、後の遺産分割協議で揉めない土台を用意しましょう。
相続人調査(戸籍収集)
・被相続人の出生から死亡までの戸籍一式を収集
・相続人全員の現在戸籍を取得し、代襲相続の有無を確認
・相続関係説明図を作成して共有
不動産の洗い出し
・登記事項証明書(全部事項)で所在・地目・持分・抵当権を確認
・固定資産評価証明書で評価額を把握(登録免許税の目安)
・名寄帳で未把握の土地建物の有無をチェック
負債・名義の付随情報
・住宅ローンや根抵当の残高、連帯保証の有無
・私道負担、越境、境界未確定のリスク
・古家は再建築可否や建築基準も確認
遺産分割から相続登記までの進め方
確定した相続人と財産をベースに分け方を話し合います。相続登記は現在は申請義務とされるため、合意が整い次第、早めに名義を移すのが実務上のポイントです。税金や売却計画とも連動させましょう。
遺産分割協議と書面化
・代表例:単独相続、共有、売却して分配、代償金の支払い
・居住者がいる場合の住み続け方と負担分担(固定資産税・修繕費)
・結論は相続人全員の実印・印鑑証明付きで遺産分割協議書に
相続登記(名義変更)
・必要書類:戸籍一式、相続関係説明図、遺産分割協議書、評価証明書、登記識別情報など
・申請先:法務局。登録免許税は「固定資産評価額×所定税率」で算出
・抵当権抹消や住所氏名変更登記が必要なことも
税金と期限のめやす
・相続税の申告・納付は原則10か月以内(基礎控除内なら申告不要の場合あり)
・固定資産税・都市計画税の納付スケジュールを引き継ぐ
・小規模宅地等の特例など控除の可否は早めに試算
売却・活用を選ぶ場合の手順
相続登記が終わると、売却・賃貸・自己使用のいずれかを検討できます。家族の生活設計、維持コスト、立地や建物状態、税負担を並べて比較しましょう。
売却の基本フロー
・現地調査と価格査定(路線価・取引事例・収益性)
・境界確認・測量や残置物処分の段取り
・媒介契約→販売→売買契約→引渡し・抹消登記
賃貸・共有で保有する場合
・賃貸は原状回復・設備投資・募集条件のシミュレーション
・共有は使用・修繕・売却の意思決定ルールを文書で取り決め
・遠方物件は管理委託や固定費の見直しで「空き家化」を防止
よくあるつまずきと回避策
実務では、期限・書類・感情の三つが壁になりがちです。期限は早めの着手で、書類はチェックリスト化で、感情は第三者を交えることで乗り越えられます。
期限・書類のミス
・相続人の押印漏れ、戸籍の抜け、評価証明書の年度違い
・登記申請の補正対応に時間を取られる
・「手続き名/担当/期限/状況」を一覧管理
家族間のコミュニケーション
・感情的な行き違いを避けるため、事実と数字を共有
・合意できない論点は「期限」「費用」「法令」の観点で整理
・折り合わなければ調停・審判等の制度も検討
まとめ:今日からできるチェックリスト
まずは現状把握と期限管理から始めましょう。完璧を目指すより、抜け漏れを減らす段取りが肝心です。以下を写して家族や関係者と共有してください。
・遺言の所在/有無を確認したか
・相続人の戸籍一式を集めたか
・登記事項証明・評価証明・名寄帳を取得したか
・遺産分割の方針(単独・共有・売却)を決めたか
・相続登記の申請計画を立てたか
・税金と費用の概算を把握したか
